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by 幸田 晋

ドイツ原発事情の今、その2−100万年続く放射性廃棄物の危険

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ドイツ原発事情の今、その2−100万年続く放射性廃棄物の危険

ブログ「みどりの1kWh」 2016年5月29日より転載

ドイツ連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省は、チェルノブイリ原発事故30周年にあたり、ドイツを中心とする世界の原発事情を検証する「みんなで脱原発を!」というタイトルの小冊子をまとめた。

前回は、この小冊子の記述のうちドイツとその他のヨーロッパの原発の現状を取り上げたが、今回は、廃炉や放射性廃棄物の最終貯蔵という困難な課題について紹介する。
小冊子では、
放射性廃棄物のいわば「在庫調べ」によって、
問題解決のとてつもない難しさが
浮き彫りにされている。


2011年3月、福島第一原発で大事故が起こった時、ドイツには17基の原発があったが、事故直後に古い原発7基と故障中の1基、計8基が稼働停止した。メルケル政権は福島事故をきっかけに脱原発を決定し、段階的な脱原発の工程表に従って去年1基が停止したため、現在までに9基が稼働停止している。残り8基の原発も工程表に従って、2017年と2019年に1基ずつ、2021年と2022年に3基ずつ停止することが法律で決められており、2022年にはドイツのすべての原発が稼働停止することになる。

しかし、すべての原発が停止された後も、それぞれの原発の廃炉と解体作業には何十年もかかる。また、使用済み核燃料棒や放射性廃棄物の最終処理という最も困難な問題が立ちはだかる。原発の後始末にかかる費用も莫大だ。

中間貯蔵施設:

核燃料棒と放射性廃棄物は最終的に処理される前に中間貯蔵施設で貯蔵されなければならない。ドイツでは使用済みの核燃料棒は、数年間原発施設内の冷却プールの中で冷却された後、円筒形の鋼鉄製(乾式)キャスク容器(HAW28、直径2.48メートル、高さ6.12メートル、容量10トン)に入れられ、中間貯蔵施設で保存される。現時点では、商業用原子炉から出た使用済み燃料棒を入れたキャスク容器450個が、原発施設内の中間貯蔵施設や輸送用キャスク貯蔵所の12箇所に保管されている。

原子力エネルギーの利用をすべて止めた後、中間貯蔵施設で保管される商業用原子炉の使用済み燃料棒を入れたキャスクの数は、約1100個に達すると見積もられている。この上さらに、実験炉、研究炉などの使用済み核燃料棒を入れたキャスクが約500個、さらに再処理された放射性核廃棄物の容器300個が加わると予想される。

2020年までにイギリスとフランスの再処理工場から戻ってくる高レベル放射性廃棄物の容器26個の中間貯蔵については、2015年12月に政治的な合意を見た。すなわち、イギリス・セラフィールドからのキャスク容器は、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、ヘッセン州、バイエルン州が受け入れる。また、フランスのラ・アーグから返還されるものは、バーデン・ヴュルテンベルク州が受け入れることで、各州の間で合意が生まれている。

廃炉: 高い費用と複雑で長期にわたる作業:

原子炉の廃炉作業のプロセスそのものは、20年以上かかる。廃炉作業の開始にも当該官庁の許可が必要である。人間と環境の安全を守るために、廃炉作業期間中の原子力安全当局の監督も必要である。

原発が稼働停止された後必要な冷却期間が過ぎると、まず核燃料棒が原子炉から取り出され、キャスク容器に入れられ、原発敷地内の中間貯蔵施設に運ばれる。核燃料棒が取り去られたことにより、原子炉内の放射線量は約1万分の1に減り、それに従って危険性も低下する。放射線量が基準以下に低下した段階で初めて、原子炉や原発施設の建物のすべてが少しずつ解体され、取り除かれ、最終的には“緑の草地„に戻る。また、解体された建物などで通常の資材として再利用し得るものは、再利用に回される。

廃炉と解体作業は、長期間かかる。そのうえ施設全体の除染、建物の解体、原子炉をはじめとするすべてのものを、処理しやすいように小さく裁断する作業、これらの作業の一部は遠隔操作で行わなければならないため、高度の技術が必要である。これまでに原発3基の廃炉と解体作業が完全に終了した。国内のかつてのいわゆる核燃料サイクル施設も解体される。例えばハーナウの核燃料工場も操業を停止し、設備は完全に解体された。カールスルーエのかつての核研究センター内の核燃料再処理実験装置はこれから停止される。原子力研究施設の操業停止と解体作業の費用は通常、連邦政府と当該州の州政府が負担する。商業用原発と核関連技術産業の解体作業の費用は、原発事業者の負担になる。

アッセ周辺地域の将来:

ドイツの原子力関連施設で批判されている場所の一つは、ドイツ北部・ヴォフェンビュッテル近郊の岩塩鉱アッセⅡである。ここは1987年まで、低レベルと中レベルの放射性廃棄物の貯蔵所とされており、これらの廃棄物を入れたドラム缶などの容器12万5787個が、不適切な、考えられないほど軽率なやり方で貯蔵されている。今日この岩塩坑は大きな問題に直面している。一つは1988年以来地下水がこの岩塩鉱に入り込んでいること、もう一つは、坑内施設そのものが崩壊する危険に晒されていることである。

社会・政治的コンセンサスのもとで、これらの放射性廃棄物をアッセⅡから取り出すことが決定されたが、この決定を実行に移すのは極めて難しい課題であり、世界でも他に例がない。計画が熟し、費用のかさむ予備作業が終わった後、放射性廃棄物の取り出し作業にかかれるのは2033年以降になると見られている。周辺住民の負担を軽減するための「アッセ未来基金」に、連邦政府は毎年、300万ユーロ(約3億7500万円)を支出して、この地域を支援している。

最終貯蔵所探しの再スタート:

原子力エネルギーからの完全撤退によって、廃棄物処理という大きな挑戦が、今後の計画策定の中心課題となってくる。50年以上の原子力エネルギーの利用が残した負の遺産をどこに持っていくべきか、放射性廃棄物の長期にわたる安全な最終貯蔵所を見つけなければならないが、それ以前に、環境汚染の恐れのある昔の一連の廃棄物を取り除き、たくさんのむき出しの危険な汚染現場の除染・洗浄が必要である。

しかし、勇気付けられる新しいスタートもある。2013年7月、最終貯蔵所探しに対し、新しい法律が制定された。「発熱性(高レベル)放射性廃棄物最終貯蔵所の探索と選定のための法律(Gesetz zur Suche und Auswahl eines Standortes für ein Endlager für Wärme entwickelnde radioaktive Abfälle)」、略称「最終貯蔵所立地選択法(Standortauswahlgesetz)」に基づき、放射性廃棄物の最終貯蔵所探しのプロセスが国民の広い層の参加のもと、公明正大な形で行われることが期待される。

「最終貯蔵所立地選択法」の目標:

これは科学的な根拠に基づき、100万年の長期にわたって放射性廃棄物を安全に貯蔵するのにもっとも適した場所を探すための基準を決めた法律である。この法律に従って我々は、将来の世代に対する我々の責任にふさわしい解決法を見つけなければならない。また、立地選択のプロセスは、国民各層に受け入れられるものでなければならない。

最初の1歩はすでに踏み出された。ドイツ連邦議会は、第3者による独立の諮問委員会の召集を決定した。この諮問委員会は、経済界、政界、市民社会の代表からなる33名の委員で構成されている。諮問委員会はその作業を今年中にも終えて、最終決定の根拠となる提案を行う予定である。その際、「最終貯蔵所立地選択法」の基準に従って、各候補地の評価も提示する。放射性廃棄物最終貯蔵所に関する最終決定は、2031年までに行われるべきだとされている。

放射性廃棄物の最終貯蔵所の二つの候補地:

ドイツではすべての放射性廃棄物は地層深く貯蔵されるべきだと考えられている。原則として最終処理と貯蔵はドイツの責任においてドイツ国内で行われるべきである。連邦環境省は、問題の解決策として放射性廃棄物を外国に輸出することは全く考慮していない。

最終貯蔵施所として二つの場所が考えられている。一つは閉鎖されたザルツギッター鉄鉱石鉱山の竪穴抗コンラートで、ここは目下低レベルと中レベルの放射性廃棄物の最終貯蔵所に改造されつつある。ここの貯蔵能力の上限は、30万3000立方メーターである。もう一つは高レベル放射性廃棄物の最終貯蔵所だが、新しい「最終貯蔵所立地選択法」に基づき、これから決定される。ここには使用済み核燃料棒とフランスやイギリスの最終処理場から戻ってきた高レベルの核のゴミが埋蔵されることになる。複数の候補地の中から、この高レベルの放射性物質の最終貯蔵所が決定され、その機能を果たすようになるのは、今世紀中ごろになる可能性がある。

ドイツで最初の実験用原子炉が稼働開始した1960年から最後の商業用原発が停止される2022年まで、原発稼働期間は62年間。その間の放射性廃棄物のさまざまな核種のうち、プルトニウムの半減期は、2万4110年である。極めて危険な放射性廃棄物を、最終貯蔵所で安全に貯蔵しなければならない期間は100万年とみなされている。

この小冊子には上のような図が掲載されている。黒い点一つ一つは、1000年を表わす。

放射性廃棄物の現状と予測:

ドイツ連邦環境省は、2015年、この時点までにたまった放射性廃棄物の量と今後出ることが予測される放射性廃棄物の量についてリストを作り、明確にわかるようにした。いわば「在庫調べ」によって可視化したのである。それによると、ドイツの商業用原発の使用済み核燃料の総重量は1万500トンに達すると見られるが、これは最高レベルの放射性物質である。低・中レベル放射性廃棄物の総量は、60万立法メーターに達すると推定される。これに、これからフランスやイギリスの最終処理場からから戻ってくる予定の高レベルの危険な最終処理済燃料、それに 岩塩坑アッセⅡの汚染された岩塩、旧東ドイツ時代のウラン濃縮工場の放射性廃棄物などが加わる。アッセⅡとウラン濃縮工場の放射性廃棄物の量は、約30万立方メーターになると予測される。

これらは国の廃棄物処理プログラムに従って処理されることになるが、放射性廃棄物の最終処理場確保にあたっては、特に高レベルの放射性廃棄物の貯蔵の安全性が考慮されなければならない。

ゴアレーベンに静けさが戻る:

「最終貯蔵所立地選択法」の制定によって、岩塩坑ゴアレーベンの地質学調査が中止された。ゴアレーベンはこれまで最終処分所の唯一の候補地として、こうした調査が行われてきたのだが、今後も、他の候補地同様、放射性廃棄物最終貯蔵所立地選択の対象として残る。岩塩抗そのものは閉鎖されないが、訪問者の入坑は中止された。

ドイツ連邦環境省がまとめた小冊子「みんなで脱原発を!」には、廃炉と解体作業、放射性廃棄物の処理と最終貯蔵にかかる莫大な費用を、誰が負担するかについての連邦経済・エネルギー省事務次官、ライナー・バーケ氏(60歳)とのインタビューが掲載されている。

⭐︎ バーケさん、原発の稼働停止、廃炉、解体、廃棄物処理には莫大な費用がかかりますが、誰がその費用を払うべきなのでしょうか?

B.(バーケ、以下B)原因を作った人、つまり原発の事業者が廃炉、解体処理の費用を払う責任があります。原子力法では初めからそのように決められています。これが原子力事業の前提であって、今も変わりはありません。

⭐︎ 原発事業者は387億ユーロ(約48兆3750万円)を引当金として積み立てていますが、原子力の負の遺産処理の費用として十分でしょうか?

B. 我々はこの問題を追求するため 2015年に経費についての「ストレステスト」を行いました。その前年、2014年の時価計算によると、事後負担額は475億ユーロ(約59億3750万円)と見積もられましたが、これにインフレ分を加算し、バランスシート上の引当金の利子などを考慮すると、387億ユーロで十分だと予測されます。十分でない場合には、原発事業者はその資産で責任をとります。問題は長期間にわたることです。例えば最終貯蔵所が2050年に完成すると仮定して、その段階で実際にそのお金が存在できるかどうかです。

⭐︎ 原発事業者が責任を逃れようとするのを防ぐため、連邦政府はどういう対策を講じるのですか?

B. 連邦政府は、企業に長期の責任を求めるための法律の草案を提示しました。この法案は、企業が原子力産業を子会社に移したとしても、親会社に長期にわたって責任を負わせるというものです。そのほか連邦政府は独立の機関である諮問委員会を設置しました。当該企業が原子力分野での義務を果たすためには、その企業が長期にわたってその義務を果たすことができるような経営状態になければなりません。この諮問委員会は、原発事業者からの資金確保を目標に設立されました。

⭐︎ 我々は、「廃炉の費用を結局納税者が負担することにはならない」と信じていいのでしょうか?

B.まさにこの点について諮問委員会はさまざまな提案をするべきなのです。
by kuroki_kazuya | 2016-05-30 06:15 | 核 原子力