元原発検査員、内部文書公表でずさんな実態を告発
2011年 06月 18日
内部文書公表
でずさんな実態を告発
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
2011年 6月 16日 11:28 JST より
【東京】
原子力安全基盤機構(JNES)
で原子力発電所の検査を担当していた
藤原節男氏(62)は、
内部文書を公表し、
当局による検査のずさんさを訴えている。
藤原氏が
JNESに
安全管理の甘さを批判し始めたのは
2009年7月。
同年中に
原子力安全・保安院 (NISA)にも訴えた。
その後10年3月に
JNES退職に追い込まれたという。
Courtesy of Setsuo Fujiwara
藤原節男氏と妻の修子さん
藤原氏は10年8月、JNESに復職を求める裁判を東京地方裁判所に起こした。JNESは裁判所への提出書類で、辞めてもらった理由は勤務成績の問題だとしている。JNESの広報担当者はコメントを控えた。これに対し藤原氏は、不当な退職に追い込まれたのは内部告発をしたためだとしている。
同氏は訴訟で、検査の問題を記録した「トラブル・クレーム対応の記録」という内部資料だとする書類を提出している。
この資料のなかには、たとえば、原子炉の検査過程において、起こった様々な問題が記録されている。藤原氏によると、この記録はトラブルに直接関わった検査員や記録を担当する部内の別のメンバーが記入し、JNESが問題を把握するために使っていた。また、別の提出書類には、ある原子炉の検査結果報告をめぐって藤原氏と上司がやりとりした電子メールの記録も含まれる。
JNESは、訴訟でこれらの資料の真偽にはコメントしていないが、藤原氏が内部機密文書を不適切に開示したと批判している。
トラブル・クレーム対応の記録には、3月の福島第1原発の事故に直接関係する項目はなく、他の原発での大きな事故につながるようなトラブルも記載されていない。ただ、検査員の不足や、一部の面で国際基準に満たない記録管理など、さまざまな面でのずさんさがうかがえる。
内部資料によると、たとえば、島根県での新たな原子炉冷却装置建設では、資格の有効期限が切れた溶接士を従事させていた。また、ある原子炉の稼働前の検査では、2人で行うべき検査を1人で行っていた。
NISAの当局者によると、内部告発制度を使って規制当局を正式に訴えたのは藤原氏が初めて。他の告発の対象は、電力会社やメーカーだという。
藤原氏は、記録に残されたトラブルやクレームに対するJNESの対応を批判した。内部でミーティングをし、エクセルで作成した記録には短いコメントを書くだけだからだ。本来なら、公式の不適合報告書を作成し、問題の綿密な分析や再発防止策を明記すべきだという。
03年の設立以来、JNESはこうした報告書をわずか2通しか提出していない。法律ではこうした報告書の提出は義務づけられてはいないが、国際原子力機関(IAEA)は奨励している。
藤原氏はインタビューで、「わたしはたまたま定年間際で、わたしに対する被害はなにもない。だからばかなドン・キホーテになっても、告発すべきだと思った」と語った。
告発に踏み切ったきっかけは、ある原発の検査で好ましくない検査結果の隠蔽(いんぺい)と感じられる行為を目撃したことだ。09年3月、北海道電力泊原で新規の原子炉の検査を担当したとき、冷却水の検査で水温が上昇していた。JNESが提出した裁判書類と、藤原氏の訴えを受けたNISAの声明で、水温上昇が当初は記載されなかった事実が確認されている。
同氏によると、再検査で良好な結果が出たことから、上司は初回検査の結果を報告書に記載しないよう命じた。JNESとNISAはこの事実も認めている。
同氏が初回検査の記録を残すように抗議すると、上司は勤務評定を悪くすると脅したという。JNESはこの上司に対する取材を認めず、現在も在職しているかどうか確認することも控えた。
藤原氏の訴訟やJNES、NISAの提出文書によると、JNESは抗議を受けて初回検査の結果を記録に残した。ただ、同氏は上司の非を認めるよう求めたが、JNESは応じなった。
大阪大学の宮崎慶次名誉教授は、「検査結果がプラスになるには、それなりに明確な理由が必ずあるはずだ。それをそのような結果がなかったとするような行為は、技術者としては絶対にしてはいけないこと」だと指摘。事の背景は詳しくは知らないとしながらも、記録の記入を求めた藤原氏の主張は「まったく正しい」と述べた。
北海道電力の広報担当者はコメントを控えた。