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by 幸田 晋

「リニア中央新幹線、無用の浪費計画」 広瀬隆原発破局を阻止せよ!(18)

「リニア中央新幹線、
無用の浪費計画」 

広瀬隆原発破局を阻止せよ!(18)

週刊朝日
2011年8月5日号配信より


東京電力が7月19日にまた、国民に気休めの嘘(うそ)を語る「事故収束の工程表」なるものを発表した。驚いたことに、その計画に、メルトダウンした燃料棒を取り出すことまで謳(うた)っている。瓦礫(がれき)となって崩れ落ちたウランの燃料棒は、一体どこにあるか、誰にもわからないのだ。おそらく2号機では、格納容器の底を破ってすでに地面にめり込んでいると見られるのだから、取り出せるはずがない。加えて、地面にめり込んでいれば、冷却ができるわけがないのに、なぜ冷温停止できるかのように、いい加減な計画を公表するのか。


 3号機では臨界暴走したとも言われるあの大爆発の実写映像から判断して、使用済み核燃料プールが破壊されているか、燃料が粉々になっていることが想像されるのだ。ところが東京電力は、その使用済み核燃料も取り出すと謳っている。  どこまで国民を馬鹿にするのか。あとは1~4号機を巨大なカバーで覆って、上空から見えないようにしてしまい、「事故を収束した」と言い張るのだろう。東京電力のおそるべき嘘は、事故を起こしてもなお、反省がまったくなく、今後何十年も果てしなく続く。それだけの歳月、放射能漏洩を隠し続ける気なのか。  さて、この原発にからむ大問題として見過ごしてならないのが、リニア中央新幹線プロジェクトである。  東日本大震災からほんの1カ月ばかりあとの4月21日、リニア中央新幹線計画を審議する国土交通省交通政策審議会の中央新幹線小委員会(委員長、家田仁・東京大学大学院教授)が最終答申案をまとめ、「南アルプスルート」「超電導リニア方式」での建設を明記する文書を提出したので、この非常識さに日本中があきれている。  東京-名古屋間を結ぶリニア中央新幹線プロジェクトは、JR東海が2027年開業を目標として、実験を進めてきた。

JR東海は、
「東海道新幹線の輸送能力が限界に近い。
したがってバイパスとしてリニア中央新幹線を敷設する必要がある」
と主張してきたが、


ちょっと待ちなさい。

東海道新幹線の最近の年間平均座席利用率は、
08年度61・2%、
09年度55・6%と、

ほぼ半分近くに落ち込んで、
席がガラガラになっているのである。


乗客が急減している時代に、
さらに人口の減少が止まらない日本で、
まったく無用の長物だということは、
子供でもわかるのに、
なぜこのような計画が進められるのか、
その神経がわからない。


 この大学教授たちは、東日本大震災によって東北新幹線が破壊されなかったことをもって、安全だと判断しているが、まったく地震の揺れについて、基礎さえ理解していない人間であることに驚く。東北地方太平洋沖地震では、津波の災害は言語を絶するほど大きかったが、地震の揺れは、3年前(08年)の岩手・宮城内陸地震より小さかったのである。リニア中央新幹線は、おそらく南アルプスを貫通すると予想され、なんと80%以上の路線が、地下40メートルより深い大深度トンネル内となる。構造物には、とてつもなく高い耐震性が求められるのだ。  南アルプスを貫通するルートは、日本最大の活断層である中央構造線と、糸魚川-静岡構造線が交錯する土地を横断する。この一帯における過去の地震の傷跡は、路線ルートのありとあらゆる地域に刻まれている。とりわけ日本の記録上、最大の内陸地震は、1891(明治24)年10月28日に発生したマグニチュード8・0の濃尾地震で、今から100年以上前に死者7273人、負傷者1万7175人の大惨事となった。  震源域は福井県から岐阜、愛知県にまたがり、根尾谷(ねおだに)では80キロにわたる大断層が出現して、上下方向に最大6メートル、水平方向に最大8メートルのずれが起こっているのだ。このような大地震では、長大な活断層の激動によって巨大な岩盤に亀裂が生じるので、いかなる耐震性をもってしても、トンネルも線路も一撃で吹っ飛び、破壊されてしまう。この大地震帯に、コントロールのきわめて困難な超電導方式で高速鉄道ルートを選ぶこと自体が、常軌を逸している。東海地震の震源域に建設された浜岡原発とまったく同じである。まして東海・東南海・南海の三連動地震が近づいているこの時期に、それに沿ってトンネル工事をしようというのだから、その人間たちの神経が理解できない。 ◆巨大な電力消費、原発増設が前提◆  さらにこの大学教授たちは、リニア中央新幹線プロジェクトを、日本が元気になるための計画だと位置づけている。この動機そのものが、見当違いであり、トンデモナイ人間たちではないか。日本で最大の自然を誇る南アルプスの山を破壊するのが、この土建プロジェクトである。駅の設置場所も未定で、環境アセスメントもできていない。用地買収も決まっていない。地元には停車もせず、住民は被害を受けるだけだ。  

リニア中央新幹線は
東海道新幹線の3倍といわれるエネルギーを必要とする。


電力消費を抑制しようと、
必死に節電に努めているこの日本で、
時速500キロで走行時の超電導リニアの想定消費電力は、
1列車で約3・5万キロワットにもなるという。

この新幹線が必要とするのは、
原発数基分に匹敵するエネルギー量になる。

JR東海は自前の発電施設を持たないので、
当然のことながらこの電力は、
新潟県の柏崎刈羽原発や、
静岡県の浜岡原発から送ることを目論んで進められてきたのである。


今や廃炉が決定的となった浜岡原発の復活論をバックアップするために、福島第一原発メルトダウン事故の直後にリニアのプロジェクトをぶちあげたのであれば、いっそう許し難いことである。  原発の新設・増設を前提に進められてきたという意味で、リニア中央新幹線は、深夜の原発電力で充電する電気自動車と同じ失敗の証明である。こんな巨大な電力を浪費するプロジェクトを立ち上げるその無神経さにあきれる。  この答申案に対して、国交省鉄道局が「パブリックコメント」、つまり意見を公募した結果が5月12日に報告されたが、リニア賛成16に対して、反対648となり、こんなものはまったく不要であると、97%の圧倒的な国民がその建設に反対している。  リニア関連予算があるというなら、それを今年度より即刻凍結し、その大金を東日本大震災の復興資金にあてるべきだ。福島第一原発の不幸な事故によって、電気自動車とリニア中央新幹線の未来が閉じられたことを、メーカーと関係者は早く認識する必要がある。

(構成 本誌・堀井正明)  

* ひろせ・たかし 1943年生まれ。
作家。早大理工学部応用化学科卒。

『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)など著書多数。

今回の連載に大幅加筆した『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)
が5月に緊急出版された。
最新刊は明石昇二郎氏との共著『原発の闇を暴く』(集英社新書)

by kuroki_kazuya | 2011-08-22 03:25 | 学ぶ