自動車のテスラが放つ、新エネルギーの成否
2015年 05月 07日
新エネルギーの成否
東洋経済オンライン 5月6日(水)15時50分配信
■ 「エネルギーのテスラ」になる?
安倍晋三首相がシリコンバレーのテスラモーターズ本社を訪れた
4月30日夕刻、イーロン・マスクCEOは自らモデルSのハンドルを握って、
助手席に座る安倍首相に急速に加速可能な電気自動車の試乗体験を提供した。
「ジェットコースターに乗ったようだ」と感想を述べた安倍首相のテスラ滞在は、25分足らず。
シリコンバレー訪問で「変化のスピードについていくこと」の重要さを実感したと語った首相だが、
何とテスラがその日のうちに
エネルギー会社へと変身を遂げる第一歩を踏み出すことになると知っていただろうか。
安倍首相を笑顔で送り出した後、マスクCEOはロサンゼルス近郊へ飛び、
テスラの新製品を発表した。
ただし、この新製品は自動車ではない。
家庭用、および業務用の「蓄電池」だ。
プレゼンテーションの壇上に立ったマスクCEOが最初に訴えたのは、
「われわれには、何もしなくても大量の電力を供給してくれる、太陽という発電機があります」という内容だ。
太陽光を無駄なく安価に利用する方法さえ見つかれば、太陽を発電機にすることが本当に可能になる。
今回の蓄電池は、
化石燃料を利用する電力グリッドに縛られた現在から、
持続可能なエネルギー時代へシフトするために欠けている要素を補うもの。
この新製品でできるのは、蓄電することだけでなく、
ピークタイムの電力利用を安くし、
家庭や業務での太陽光発電を利用しやすくすること。
これが成功すれば、
既存の電力グリッドにまったく頼らないエネルギー生活も可能になる。
それを後押しするのは、
テスラが電気自動車の開発で推し進めてきた効率的なリチウムイオン電池の生産だ。
さて、家庭用に発表された蓄電池「パワー・ウォール」は
壁掛け型で、テスラの自動車にも倣ったスマートなデザイン。
幅86センチ、高さ130センチ、厚み18センチで、重さは100キロ。
これが2モデルで発売される。
■ 3000ドル前後という、予想を大幅に下回る価格
バックアップ電力を蓄電できる容量10キロワット時のモデルは、価格が3500ドル。
一般家庭での連続的な利用が可能な容量7キロワット時のモデルは、3000ドル。
いずれの製品も、アナリストらが2万ドル程度と予測していたのに比べても驚くほどの安さ。
ソーラーパネルの価格がどんどん下落しているのと併せて、
消費者に「元が取れる」と説得させられる範疇に入ってきている。
パワー・ウォールは9個まで連結設置が可能という。
色も赤やグレーなど数色で発売される。
発表と同時に予約を受付け、出荷は3~4カ月後という。
一方、業務用「パワー・パック」は据え置き型で、容量1ギガワット時。
こちらは無限にスケーラブル(拡張可能)で、
これが1億6000個あればアメリカ全土を持続可能な発電に変えられるという。
マスクCEOのビジョンは、アメリカだけに限らない。
パワー・パックが世界で20億個あれば、
世界の交通、発電、暖房などに要する電力をすべて賄えると主張。
「20億個などと、とんでもない数字を持ち出したと思われるかもしれません。
けれども、今地球上には20億台の車が走っている。
20億台は、われわれが成し遂げた数字なのです」と、
実現可能性を強調した。
・・・(中略)
テスラの電気自動車はシリコンバレーではちょくちょく見かけるものの、
安くても7万5000ドル(政府補助金適用前)と、
一般庶民にはまだまだ高値の華。
ラグジュアリーさが目立つばかりだった。
一方、蓄電池の3000ドルという値段は、
持続可能なエネルギーに熱意を燃やすテスラの存在を
ぐっと身近に感じさせるものになる。
時代の要望に真にマッチして、
身売りのうわさもあったテスラを救うことになるだろうか。
その回答はそれほど長く待たずして出るだろう。
瀧口 範子