老朽化・耐震化対策が問われる熊本地震:九州電力の水力発電施設の麓では死者2名
2016年 05月 09日
老朽化・耐震化対策が
問われる熊本地震
:九州電力の水力発電施設の麓では死者2名
まさのあつこ ジャーナリスト 2016年5月8日 15時45分配信より転載
九州電力が熊本県に持つ黒川第一発電所の施設で土砂崩れが起き、麓の集落で9戸が泥流で流され、2名の死者を出していた。読売新聞が4月16日に「16日午前6時40分、熊本県南阿蘇村で、読売ヘリから」撮影を行い、朝日新聞が5月7日に「阿蘇の水力発電所、地震で壊れる 集落へ大量の水流出」で、写真と動画を掲載した。
黒川第一発電所(最大42200kW)は、黒川に設けた「ダム」で取水し、「赤瀬沈砂池」で阿蘇山の火山灰などを沈殿させ、「水層」に貯めてから「水圧鉄管」の落差244.9m(*1)を使って発電し、白川へ排水する水力発電施設だ。
今回の熊本地震で崩壊したのはそのうちの「水層」で、被害を受けたのは「水圧鉄管」の西100mほどのところにある集落であることが、各紙の報道写真と地図(Googleマップへのリンク)および、筆者が昨年9月に撮した黒川第一発電所の案内図(上写真)で分かる。
水層から流れ出た水量は、朝日新聞が「取水を止めた午前9時半ごろまでに流出した水は、約1万立方メートル(25メートルプールで約20杯分)」とみられると報じている。
コンクリート・ダム施設の老朽化・耐震化対策は急務
実は、九州電力が所有する水力発電施設が壊れたのは今回が初めてではない。
2008年6月22日には、同じ熊本県の球磨川にある九州電力所有の板木ダム(=川辺川第一発電所、重力式コンクリートダム、当時、最大出力2500kW)が、台風でも洪水でもない、普通の雨でこつ然と損壊した(*2)。このダムからの送電がないことに同社が気づいて見に行くと、壊れていたという事件だった。
1937年竣工以来、当時71年目のコンクリートダムだった。この時は、直下流に集落がなく人的な被害は起きなかった。
2008年10月7日に電話取材で「コンクリートの劣化が原因か」と尋ねた筆者に、丸3ヶ月後にしてなお、九州電力熊本支店の広報グループは、「コンクリートは100年以上使える構造物と考えているので劣化はないという想定です。なんらかの力が加わって、どこから壊れたかということも含めて調査する」と回答した。この崩壊ダムはその後、撤去され、2012年6月までに新ダムが建設された。
今回の熊本地震で崩壊した黒川第一ダムは1914年に完成し、102年目の施設である。
ダム・関連施設の耐震化対策は「レベル2地震動」でいいのか
国土交通省河川局(現、水管理・国土保全局)は、1995年1月の阪神淡路大震災から10年が経った2005年3月に、「ダム耐震性能照査指針(案) 同解説」を策定した。
「ダムは、著しい損傷などにより制御できない貯水の流出が生じた場合、下流域に対し甚大な被害を発生させるおそれがある」として作られた。
指針の対象はダム本体と関連構造物だが、今回崩壊した阿蘇の火山灰を沈殿させるためにある特殊な施設を含めて全国でどれだけ点検が行われているのか、再確認と対策は急務である。
また、指針自体の見直しも必要である。「ダム地点において現在から将来にわたって考えられる最大級の強さを持つ地震動」として「レベル2地震動」を調査の基準としたが、「レベル2地震動」は阪神淡路大震災の地震(最大加速880ガルを記録(*3))の規模の半分程度だと指摘されている。
今回の事件については、土木構造物の老朽化と地震の両面、その複合要因を含めて、そうではないと立証できない限りは、九州電力は被害の責任を免れることはできないのではないか。被害者の泣き寝入りは許されない。
老朽化施設と地震の関係は、ダムのみならず、巨大人工物のすべてて、再度の見直しが求められるべきである。もう「想定外」は言い訳にはならない。
参考
(*1)電気の施設訪問レポート vol.12「電気の歴史につながる 九州電力・黒川第一発電所を訪問しました」
(*2)「県民が実現させた熊本・荒瀬ダム撤去-次に必要なことは何か」月刊『世界』(岩波書店)2013年1月号、まさのあつこ
(*3)内閣府防災情報のページ「阪神・淡路大震災の概要」
まさのあつこ ジャーナリスト
ジャーナリスト。1993~1994年にラテン諸国放浪中に日本社会の脆弱さに目を向け、帰国後に奮起。衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。著書に「四大公害病-水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害」(中公新書、2013年)、「水資源開発促進法 立法と公共事業」(築地書館、2012年)など。
問われる熊本地震
:九州電力の水力発電施設の麓では死者2名
まさのあつこ ジャーナリスト 2016年5月8日 15時45分配信より転載
九州電力が熊本県に持つ黒川第一発電所の施設で土砂崩れが起き、麓の集落で9戸が泥流で流され、2名の死者を出していた。読売新聞が4月16日に「16日午前6時40分、熊本県南阿蘇村で、読売ヘリから」撮影を行い、朝日新聞が5月7日に「阿蘇の水力発電所、地震で壊れる 集落へ大量の水流出」で、写真と動画を掲載した。
黒川第一発電所(最大42200kW)は、黒川に設けた「ダム」で取水し、「赤瀬沈砂池」で阿蘇山の火山灰などを沈殿させ、「水層」に貯めてから「水圧鉄管」の落差244.9m(*1)を使って発電し、白川へ排水する水力発電施設だ。
今回の熊本地震で崩壊したのはそのうちの「水層」で、被害を受けたのは「水圧鉄管」の西100mほどのところにある集落であることが、各紙の報道写真と地図(Googleマップへのリンク)および、筆者が昨年9月に撮した黒川第一発電所の案内図(上写真)で分かる。
水層から流れ出た水量は、朝日新聞が「取水を止めた午前9時半ごろまでに流出した水は、約1万立方メートル(25メートルプールで約20杯分)」とみられると報じている。
コンクリート・ダム施設の老朽化・耐震化対策は急務
実は、九州電力が所有する水力発電施設が壊れたのは今回が初めてではない。
2008年6月22日には、同じ熊本県の球磨川にある九州電力所有の板木ダム(=川辺川第一発電所、重力式コンクリートダム、当時、最大出力2500kW)が、台風でも洪水でもない、普通の雨でこつ然と損壊した(*2)。このダムからの送電がないことに同社が気づいて見に行くと、壊れていたという事件だった。
1937年竣工以来、当時71年目のコンクリートダムだった。この時は、直下流に集落がなく人的な被害は起きなかった。
2008年10月7日に電話取材で「コンクリートの劣化が原因か」と尋ねた筆者に、丸3ヶ月後にしてなお、九州電力熊本支店の広報グループは、「コンクリートは100年以上使える構造物と考えているので劣化はないという想定です。なんらかの力が加わって、どこから壊れたかということも含めて調査する」と回答した。この崩壊ダムはその後、撤去され、2012年6月までに新ダムが建設された。
今回の熊本地震で崩壊した黒川第一ダムは1914年に完成し、102年目の施設である。
ダム・関連施設の耐震化対策は「レベル2地震動」でいいのか
国土交通省河川局(現、水管理・国土保全局)は、1995年1月の阪神淡路大震災から10年が経った2005年3月に、「ダム耐震性能照査指針(案) 同解説」を策定した。
「ダムは、著しい損傷などにより制御できない貯水の流出が生じた場合、下流域に対し甚大な被害を発生させるおそれがある」として作られた。
指針の対象はダム本体と関連構造物だが、今回崩壊した阿蘇の火山灰を沈殿させるためにある特殊な施設を含めて全国でどれだけ点検が行われているのか、再確認と対策は急務である。
また、指針自体の見直しも必要である。「ダム地点において現在から将来にわたって考えられる最大級の強さを持つ地震動」として「レベル2地震動」を調査の基準としたが、「レベル2地震動」は阪神淡路大震災の地震(最大加速880ガルを記録(*3))の規模の半分程度だと指摘されている。
今回の事件については、土木構造物の老朽化と地震の両面、その複合要因を含めて、そうではないと立証できない限りは、九州電力は被害の責任を免れることはできないのではないか。被害者の泣き寝入りは許されない。
老朽化施設と地震の関係は、ダムのみならず、巨大人工物のすべてて、再度の見直しが求められるべきである。もう「想定外」は言い訳にはならない。
参考
(*1)電気の施設訪問レポート vol.12「電気の歴史につながる 九州電力・黒川第一発電所を訪問しました」
(*2)「県民が実現させた熊本・荒瀬ダム撤去-次に必要なことは何か」月刊『世界』(岩波書店)2013年1月号、まさのあつこ
(*3)内閣府防災情報のページ「阪神・淡路大震災の概要」
まさのあつこ ジャーナリスト
ジャーナリスト。1993~1994年にラテン諸国放浪中に日本社会の脆弱さに目を向け、帰国後に奮起。衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。著書に「四大公害病-水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害」(中公新書、2013年)、「水資源開発促進法 立法と公共事業」(築地書館、2012年)など。
by kuroki_kazuya
| 2016-05-09 06:15
| 九電労組