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by 幸田 晋

不動産王トランプの名が「パナマ文書」に出てこない理由 影の巨大タックスヘイブンとは?

不動産王トランプの名が「パナマ文書」に出てこない理由 

影の巨大タックスヘイブンとは?

木村正人 在英国際ジャーナリスト 2016年5月10日 3時36分配信より転載

http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20160510-00057507/

「パナマ文書」詳細版を公開

世界の政治指導者やその家族、友人による不透明な資産運用を明るみに出した「パナマ文書」の詳細版が国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって公開されました。データベースから簡単に検索できるので筆者もトライしてみました。

国名、人物や企業の名前を入れると該当するリストが出てきて、関係図を表示できます。人物や企業のアイコンを押すと詳細なデータが表示される仕組みになっています。非常に便利なオンライン登記所といった感じです。

パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から漏れだした1150万文書はデータ量にして2.6テラ(兆)バイト。ウィキリークスに漏れた米軍や米国務省の資料が1.7ギガ(10億)バイトの1529倍。同事務所が過去40年近くにわたって扱った21万社分の極秘資料です。

使われていたタックスヘイブン(租税回避地)はカリブ海に浮かぶ英領バージン諸島が断トツに多く、次いで中南米パナマ、インド洋のセーシェルなど21の国・地域にのぼっています。しかし、本当の主役にスポットライトが当たっていないような気がします。

国際NGO「タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)」は21兆~32兆ドルの個人的な金融資産がタックスヘイブン(租税回避地)、すなわち秘匿性の高い国や地域に移され、課税を逃れたり、過剰な節税を行ったりしていると指摘しています。違法な国際取引は年1兆~1.6兆ドルにのぼると推定されてきました。

日本はパナマより上の12位

TJNが作った昨年の「金融秘匿性指標(FSI)」をグラフにしてみると、「パナマ文書」とはまったく違う構図が浮かび上がってきます。

上のバブルチャートは横軸がオフショアを使った金融サービスの規模、縦軸は各国・地域の秘匿性の高さ、バブルの大きさはそれぞれを加味したFSI値の大きさを表しています。

もっと分かりやすいようにFSI値だけを取り出して棒グラフにしてみました。スイスが1466.1ポイントでトップ。2位は香港の1259.4ポイント。3位は米国1254.7ポイント。パナマは13位で415.6ポイントです。

これに対し「パナマ文書」で最も人気のタックスヘイブンは英領バージン諸島で11万3648社。2位がパナマで4万8360社。米ネバダ州は8位で1260社、香港は9位で452社です。

「パナマ文書」ではアイスランドのグンロイグソン首相(辞任)ら政治指導者の名前が浮上し、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席、キャメロン英首相らG7やG20の主要メンバーの親族や友人による租税回避が指摘されました。

会社を設立しやすく、自分の名前を隠しやすいタックスヘイブンの問題がクローズアップされたのは意義がありましたが、今や問題はオフショアのタックスヘイブンから別のところに移っています。

世界の富が集まる金融センター

米経営コンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループのまとめをみると、世界の金融センターには、富があふれています。オフショアこそ少ないものの、やっぱり米国の金融センターに世界中の富が集中していることが分かります。伸び率も年5.9%と予想され、香港(8.5%)とシンガポール(8.1%)を除くとトップです。

億万長者は米国にたくさんいるのに、「パナマ文書」では不思議なほど名前が出てきません。

2008年の世界金融危機をきっかけに、ギャンブルのような投機の舞台になっていたタックスヘイブンに批判が集中し、金融危機の再発防止という観点から経済協力開発機構(OECD)が対策を強化しました。09年5月には非協力的だったアンドラ、リヒテンシュタイン、モナコの3カ国がOECDの透明性、情報交換に応じる意思を表明し、タックスヘイブン問題は大きく前進します。

米国の富裕層が脱税や過剰な節税に使っていた伝統的なスイスの銀行の秘密主義にも注目が集まり、米国の強烈な圧力の前にスイスの銀行は屈して秘密主義を見直します。スイスやタックスヘイブンは今や資産を隠すのに最適の場所とは言えなくなっているのです。

「新しいスイス」とは

ブルームバーグや英紙フィナンシャル・タイムズによると、今や「新しいスイス」は米サウスダコタ州に移り、製菓会社やホテルチェーン、巨大ヘッジファンドの一族が信託を置いています。FT紙は、スー・フォールズのサウス・フィリップス街201番地には40もの信託会社があり、信託財産は800億ドルにものぼると報じています。


サウスダコタ州の人口は約86万人で、全米の州の中で46番目。「人よりキジの方が150万羽もいて多い」というのが地元で受けるお決まりのジョークです。

同州は所得税も法人税もゼロ。信託の規模にも制限がありません。信託の設立を手助けするサウスダコタ信託会社によると、同州の信託・保険法による保険料税の税率は0.08%。全米平均は2%で、デラウェア州、ニューヨーク州の2%、フロリダ州の1.75%に比べても恐ろしく低くなっています。

実際、サウスダコタ州でどれぐらい信託会社が増えたかというと、

06年に20社だった信託会社が16年に4倍以上の86社に増えた

06年に328億ドルだった信託財産は14年に7倍近い2260億ドルに膨らんだ(いずれもFT紙)

OECDは98カ国・地域と銀行口座、信託、投資の新たな情報開示について合意しましたが、バーレーン、パナマ、そして米国は合意に縛られるのを嫌がっています。今やスイスやオフショアではなく、米国のサウスダコタ州、ワイオミング州、ネバダ州、デラウェア州が新たなタックスヘイブンとして富を吸い寄せています。

元凶は米国と英国だ

米大統領選の共和党候補者選びで指名獲得が確実になっている不動産王トランプ氏は所得申告書の開示を渋っているため、保有資産の実態は明らかではありません。

米大統領選の共和党候補者選びで指名獲得を確実にした不動産王トランプ氏のような著名な米政治家や資産家の名前が今のところ「パナマ文書」に登場していないのは、海外のタックスヘイブンを使わなくてもペーパー会社の設立が簡単で税率が低い州が国内にいくらでも存在するからでしょう。

オバマ米大統領は(1)連邦法人税率を35%から28%に下げる代わりに、海外留保資金に強制課税する(2)秘匿性の高いペーパー会社の実際の所有者を報告するよう義務付け、罰則を科す改革案を示しました。しかし、これまでも同様の案が出た際、共和党の反対にあっています。

主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)はタックスヘイブンを使った節税の防止などを柱とした対策を採択する方針です。しかしドイツの90年連合・緑の党のSven Giegold欧州議会議員は「問題の中心は(タックスヘイブンではなく)米国や英国です」とツイッターで指摘しています。

(おわり)



木村正人 在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
by kuroki_kazuya | 2016-05-11 06:15 | 超大金持ち 資本家