スキーにはまっています。


by 幸田 晋

北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか

北海道胆振東部地震
「泊原発が動いていれば停電はなかった」論は


なぜ「完全に間違い」なのか


9/10(月) 8:40配信より一部

HARBOR BUSINESS Online

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180910-00174509-hbolz-soci

 去る9月6日3時8分、北海道胆振(いぶり)地方の深さ37kmを震源とするM6.7の地震が発生しました。最大震度は震度7(激震)で、これは北海道では記録上最大の揺れとなりました。 

 この地震により直後から北海道全道で電力供給が止まり、執筆中の9月8日6時現在で2万戸が停電しています。また、電力供給能力が下がっており、需要家への節電が呼びかけられており、計画停電の可能性も報じられています。電力供給能力の完全復旧までには地震発生から1週間以上かかると見込まれています。

 この地震により北海道電力は、離島を除く管内全域で停電を起こし長期間運転休止中の泊発電所では、外部電源喪失という原子力発電所としては極めて深刻なインシデントを生じました。

 そして、例によってこの地震発生直後から、「泊発電所は大丈夫か、福島核災害の再来とならないか。」「泊発電所を運転していれば停電は起こらなかった。今からでもすぐに運転しろ。」という2つの声がSNSで飛び交っています。特に後者はそれぞれ一部の工学系研究者、科学技術系ライター、起業家、急進右派政治家と、ネット右翼(ネトウヨ)によりオルゴール様言論と化しています。

 さて、この地震では北海道電力に何が起きたのでしょうか? そして、これら2つの言論は意味のあるものなのでしょうか。本稿ではこれらを検証します。

◆日本では起きないとされていた「ブラックアウト」

 2018年9月6日3時8分、北海道胆振地方中東部深さ37kmを震源に、M6.7の地震が起きました。この地震は北海道胆振東部地震と命名されましたが、本稿では北海道大地震と略称します。

 この地震により胆振地方では震度7を記録した地域を中心に甚大な人的、物的被害を生じました。一方で、地震の規模は日本での大地震としては際だって大きなものではなく、人口密集地での震度は最大で6弱、多くは5強以下となり大きな人的被害を生じませんでした。したがって地震被害のみでは、北海道の社会機能は早期に回復するはずでした。

 ところが、地震発生直後から17分以内に北海道全域で電力供給が止まり、短時間での復旧が不可能となりました。この状態をブラックアウトと呼び日本では起こりえないとされてきた極めて深刻な電力事故でした。このような大規模広域停電としてよく知られているのは2003年北アメリカ大停電で、5000万人が影響を受けました。当時日本では、小規模電力会社で構成されるため、広域送電技術の遅れている合衆国、カナダ固有の問題であって優れた送電技術を持つ日本では起こりえないとされました。今回それが北海道で発生したといえます。

 ブラックアウトが生じると、火力、原子力などの汽力発電所(蒸気や高温ガスでタービンを回し発電する発電所)の再起動は単独では不可能となり、水力発電によって電力を汽力発電所に供給し、その電力によって起動してゆきます。そのため再起動にはたいへんな時間がかかります。

 このブラックアウトによって泊発電所が外部電力喪失となり、非常用ディーゼル発電機(DG)によって所内電力を供給することになりました。2011年の福島核災害(Fukushima Nuclear Disaster)は、地震により夜の森27号鉄塔が倒壊したことによる外部電源喪失が引き金になって起こっていますので、多くの市民がまた核災害が起きるのではと恐怖を感じ、一時騒然となりました。幸い、泊発発電所では非常用DG起動に成功し、その日のうちに外部電源も回復しましたので事無きを得ています。

 このブラックアウトがもしも厳冬期に起きれば、確実に数多くの凍死者がでていました。また不幸な条件が重なり、泊発電所で大規模核災害が生じた場合、福島核災害と異なり、発電所の東側に広大な居住地が広がる為にきわめて深刻な被害を生じていました。今回、この二つの最悪の想定に比してきわめて軽微な損害で終息しつつありますが、それでも人的、物的、経済的被害は大きなものとなります。

◆止まっていてむしろ幸いだった泊発電所

 震災当時、泊発電所は福島核災害後の再審査に手間取っており、運転認可がありませんでした。結果、泊発電所の全原子炉は停止後6年を経て冷温停止状態でした。そもそも、核燃料は原子炉の中になく、すべて使用済み核燃料プール(SFP)で冷却中でした。

 核燃料は、原子炉での連鎖核反応が終わったあとも核分裂性物質(FP)の崩壊によって熱を発生させます。これを崩壊熱と呼びますが、原子炉停止直後には原子炉熱出力の10%の崩壊熱を持ち、冷却が途絶すると数時間で炉心溶融が生じます。この崩壊熱は1年後に0.2%となり、5年後には一万分の一程度になります。この為、SFPの中の核燃料の崩壊熱によってプールの水が沸騰するまでには電源喪失後一週間以上の時間的余裕があると予想されます。

 原子力・核施設の安全を確保する為にとても大切なのは時間的余裕(時間稼ぎ)です。使用から何年も経過した使用済み核燃料は、十分に「冷えて」いて電源喪失後も緊急時対応に使える時間はたっぷりあります。したがって、人の手が加えられる限り(人が近づける限り)燃料溶融のような破滅的危機に陥ることは無いと考えて良いです。

 これがもしも運転中の原子炉ですと、外部電源喪失後に非常用DG起動に失敗し、更なる措置にも失敗して原子炉の熱除去に失敗した場合、速やかに(約2時間程度で)炉心は溶融し、最悪の場合は原子炉が爆発、崩壊することで大規模核災害に到ることになります。もちろん、非常用DGは二重化されており、高い信頼性がありますし、今回は無事に起動しています。したがって、運転中であっても今回は無事に冷温停止に持ち込めたと思われます。

 しかし、事実として運転中と停止中の原子炉では根本的に内包するリスクは異なります。

 停止中の原子炉と運転中の原子炉とでは、安全余裕に雲泥の差があります。時々見受けられる運転中の原子炉も停止中の原子炉も、安全性に違いがないから運転していたほうが良いと言う無根拠の意見は、根本的かつ完全に誤っています。そのような言論には塵芥ほどの価値もありません。

・・・(途中略)

◆そもそも「不適格」状態だった泊原発

 まず、泊発電所は、原子力規制委員会による審査に合格することが出来ずに稼働できていません。したがって、大前提として泊発電所は商用原子力発電所として法的に稼働できません。したがって、「泊が動いていれば」という仮定自体が全く無意味です。

 泊発電所は、優先して審査が進められている加圧水型原子力発電所(PWR)の中でも当初最優先で審査が進められていました。これは再稼働の実績を作る為にPWRの中でも反発の少ない田舎の発電所を優先した為と指摘されています。ところが、泊の審査が進まず、伊方発電所が最優先となり、この伊方も愛媛知事選前年の市民による反対集会に予想外に多くの市民が集まり、翌年の愛媛県知事選挙への影響を恐れて繰り延べになりました。結果、既に県知事選挙を終えていた鹿児島県の川内発電所の審査を最優先に進められた経緯があります。この当時、鹿児島県知事であった伊藤祐一郎氏は、自治官僚時代に石川県に出向し、志賀原子力発電所の立地計画に携わった経緯がありました。

 伊方発電所は1年遅れの2016年8月に再稼働し、既に隣接県、市町村などの反発が強く逆風の強い関西電力でも大飯、高浜発電所の再稼働がはじまっています。PWR陣営では、老朽化著しい美浜発電所、直下に活断層があり、審査合格の見込みがない原電敦賀2と泊発電所が再稼働未達成で残るだけです。

 では何故、泊発電所は新規制基準の適合性審査に合格できないのでしょうか。泊発電所は3号炉が2009年運開と、国内PWRではずば抜けて若く、1号炉2号炉も第1次改良標準化炉の後期運開で、問題になるほど古い訳ではありません。

 理由は単純に、北海道電力が原子力規制委員会(NRA)の求める水準を満たせないからです。書類不備が次々にNRAに指摘され、適合性審査は遅れに遅れています。国や関係者は、NRAの適合性審査を、「世界一厳しい」と僭称(せんしょう)していますが、実際には多重防護の第5層が存在しないことからも分かるように、旧西側世界ではザルといって良いくらい大変に甘いものです。その適合性審査の合格水準に遠く及ばないのが北海道電力泊発電所です。

 また、泊発電所は、東京電力柏崎・刈羽発電所と並んで構内で不審者の侵入や不審火が多発(参照:泊発電所の安全管理体制 北海道庁)する世界でも珍しい原子力発電所で、これも原子力安全という点で著しい欠格事項です。

 もともと2014年には運開が見込まれていた泊発電所が審査に合格できず運転再開できない、この先順調に審査が進んだとしても来年後半の運開も怪しいのは単純に泊発電所が基準を満たせない為です。したがって、「泊が運転中であれば」という「たら」「れば」論は、6年越しで車検に合格できない整備不良の無車検車を乗り回せ「たら」と言うようなものです。

 要するに、手続き論としこれらの主張は破綻しています。

・・・(途中略)

 結論を書けば、今回仮に泊発電所が動いていた場合、定格出力運転中の原子炉は苫小牧での送電網破綻の影響で緊急停止することになり、その上ブラックアウトの為に外部電源を喪失します。これはたいへんに危険なことで、もしもここですべての非常用DGの起動に失敗すれば最終的に原子炉が爆発する可能性があります。

 これは北海道電力特有の弱点で、今回その弱点が露呈したと言えます。これにより、今後泊発電所の適合性審査はさらに難しいことになると考えられます。なぜなら、安定した送電と外部電源という多重位防護の第1層に弱点を露呈したことになるからです。

◆北海道電力は今回のブラックアウトを糧にせよ

 北海道電力は初の天然ガス火力発電所となる石狩湾新港発電所(総出力1.7GWe)を建設中ですが、このうち1号機(570MWe)が来年2月に運開予定です。これにより苫小牧に集中している発電所が石狩湾岸に分散されます。また、北本連系線の増強も2019年に完成し、現在の600MWeから900MWeに増強されます。

 現状では完成は2030年と予定されていますが、石狩湾新港発電所が3号機まで完成すると、苫東厚真発電所と同等の容量の発電所が石狩湾岸に分散され、また天然ガス火力は出力調整能力を持ち、起動特性も良好です。なお、天然ガス火力発電所は着工後3年で完成できます。

 北海道電力は泊発電所の再稼働に経営資源を配分してきた為に石狩湾新港発電所への投資が遅れており、今回のブラックアウトは投資判断の誤りの結果と考えることも出来ます

・・・(途中略)

 このTweetは、発電所を乾電池と勘違いしています。実際には、三相交流の同期を厳密に維持せねばならず、泊発電所のような大出力で、出力追従が出来ず、出力調整には新たな適合性審査の必要な原子力発電所は現状の北海道電力の送電網の持つ脆弱性を更に大きくしてしまいます。むしろ、そのような脆弱性を持つ発電網に原子力発電所を接続することは、多重防護の考えに反します。多重防護は原子力安全の大黒柱です。このTweetはその大黒柱にシロアリを住まわせるような危険な発想です。このような考えは、最悪、原子炉を爆発させてしまいます。

 北海道は、風力発電にきわめて好適です。また、炭層メタン(コールベッドメタン:CBM)と呼ばれる合衆国始め諸外国ではとっくに実用化している天然ガスが閉山した炭坑に豊富に存在します。更に、ロシアのサハリンからの天然ガス輸入に好適であり且つ資源がだぶついているアラスカ産の天然ガス輸入にも好適な位置にあります。天然ガスは有効な資源として来世紀いっぱい持つほどに豊富にあり、現在世界は新・化石資源革命と呼称できるほどの大変革に見舞われています。

 天然ガス火力は、出力300~600MWeが主力であり、北海道電力の送電網に丁度よい発電規模を持ちます。無理な大出力化をしなくても十分にやすいのです。

 北海道電力は過去100年間「常敗無勝」を誇る日本のエネルギー政策に翻弄されてきました。その結果が今回の北海道大停電です。この停電がもしも冬に起きていればたいへんな数の凍死者が生じていました。もはや常敗無勝路線から脱せねばならないと私は考えます。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編2

<文/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado>

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定
by kuroki_kazuya | 2018-09-11 06:45 | 九電労組 | Comments(0)