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by 幸田 晋

貧困ジャーナリズム大賞にNHK「長すぎた入院」

貧困ジャーナリズム大賞に

NHK「長すぎた入院」、
青木美希氏「地図から消される街」など3作品


水島宏明 | 上智大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター

9/18(火) 19:00より一部

https://news.yahoo.co.jp/byline/mizushimahiroaki/20180918-00097355/

 市民団体「反貧困ネットワーク」が9月18日19時に発表した資料によると、今年の貧困ジャーナリズム大賞関連の受賞作品は以下の通り。貧困ジャーナリズム大賞3作品。貧困ジャーナリズム特別賞2作品。貧困ジャーナリズム賞が8作品となっている。

■ 貧困ジャーナリズム大賞(3)

・NHK 青山浩平、真野修一  ETV特集「長すぎた入院~精神医療・知られざる実態~」(18年2 月3日)

 朗らかな表情でカラオケを歌う66歳の男性・時男さん。彼は40年近くも精神科病棟に入院したまま退院できなかった。2011年3月に起きた福島第一原発事故で原発近くの精神科病棟から転院を余儀なくされた「患者」だった。他の病院の精神科では「入院の必要はない」と退院することになったが、時男さんだけでなく、他にもそういう患者が多数続出した。登場する「患者たち」の言動をみていると、隔離する必要がどこにあるのかと思われる、ごくごく普通の人たちだ。彼らはどうして長い間、入院しなければならなかったのか、という疑問や憤りがわいてくる。精神医療の構造的な問題を明るみに出した見事なスクープ報道といえる番組。穏やかな表情の時男さんが「失った人生を取り戻したい」と語る言葉が映像を通して切なく伝わる。日本では5年以上入院する精神病患者は10万人もいるという。他の先進国と比べて突出して多い数字だ。精神医療によって様々な機会を奪われる人たちが今もいることを知らしめた功績は大きい。

・朝日新聞 青木美希記者 地図から消される街 3・11後の「言ってはいけない真実」」 (講談社現代新書)


 この本には一人の記者が福島第一原発事故の「周辺」を取材して目撃した関係者の生活不安や生きがいの喪失といった現実の断片がこれでもかというほど描写されている。手抜き除染をする業者。廃炉の作業に従事する原発労働者。事故で避難を余儀なくされながら「自主避難」として括られて住居の確保や仕事の困難、さらには生活苦や家庭崩壊などに直面する人々。なかには自死を選んだ人たちも少なくない。著者が目撃した現実の数々をたどってみていると、この国では国民の安全を守ろうという意識が希薄だった国の姿勢が原発事故につながったばかりか、事故後の住民のたちの「貧困」も国の政策の不備で「つくられている」ということを痛感する。大手のマスコミが日々のニュースなどでは必ずしも報道しきれない、複層的な貧困の連鎖が浮かび上がってくる。そうした「つくられた貧困」の現状を等身大の感受性で描いた労作で、すぐれたジャーナリストが持つ責任感が全編を貫いている。

・ワセダクロニクル渡辺周編集長ら「強制不妊」取材班 ワセダクロニクル「精神病患者や障害者等への強制不妊手術」についてのキャンペーン報道

 旧優生保護法によって精神や身体に病気や障害を持った人たちなどが戦後の長い間、強制的に不妊手術を受けさせられていた実態。1948年制定の優生保護法によって国策として各地で行われ、1996年まで法律上は実施可能だった。最近になって当事者が声を上げて裁判に訴えるケースも出始め、新聞やテレビなどでもたびたび報道されるようになった。一連の報道の中で18年2月に先鞭をつけたのが、インターネットで発信するワセダクロニクルだ。日本で最初の本格的な調査報道NPOである同団体は、「探査ジャーナリズム」をうたい、広告収入や購読料に頼ることなく、読者の寄付だけで運営されている。ワセダクロニクルは2017年から情報公開請求などで集めた文書資料を元に探査を進め、18年8月末までに26回にわたって強制不妊に関する記事を公開した。相模原市での障害者殺傷事件で逮捕された被告が示した優生思想は関係者に大きな衝撃を与えたが、実は「強制不妊」をめぐっては国家や地方自治体、医師やマスコミなどが率先して優生思想を元に「不良な子孫の出生を防止する」ことに邁進する実態があったことを一連の記事は露見させた。なかには精神疾患も障害もないのに、貧困ゆえに勉強が遅れた少女が不妊手術を強いられていたケースを発掘した記事まである。「忌まわしい過去」を直視しない社会のありようが再び同じ過ちを繰り返してしまう教訓も伝えている。強制不妊に伴って数々の人権侵害や当事者の無念を歴史に遡って暴き出した報道の価値は、ジャーナリズムの歴史の中でも傑出している。「強制不妊」のキャンペーンは現在も継続中だ。調査報道NPOは米国ではピューリッツァー賞を受賞するなどメジャーな存在になっているのに比べると、日本ではまだ多くの人が知る存在とはいえない実態がある。その社会的な認知が高まることを願い、ここに大賞を贈る。


■ 貧困ジャーナズム特別賞(2)

・関西テレビ 米田孝、女優 吉岡里帆 ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』

 多くの人々が視聴する時間帯の連続ドラマで、「生活保護のケースワーカー」が仕事の自治体職員が直面する貧困問題をリアルに描いた番組だ。主演の吉岡里帆も悩みながらも当事者に寄り添うワーカー役を好演している。生活保護を受けている母子家庭の高校生がバイト代を申告しなかった不正受給の問題などを、けっして上から目線でなく、当事者の思いや事情もあることに理解を示しながら共感をもって描いている。受給者に多い自死の問題、識字障害やアルコール依存症など、社会的に理解が広がっているとは言いがたい貧困にまつわる障害や病気などの問題についてもよく整理して伝えている。生活保護からの脱却=役所でいうところの「自立」を言葉で促すことは簡単だが、実際には個々のケースに一筋縄ではいかない難しさが伴うことを、ドラマだからこそ描写可能な表現で丁寧に描いている。原作の素晴らしさに加えて、脚本や制作スタッフ、俳優陣が現場の問題を十分に勉強していればこその秀逸な作品だといえる。


・共同通信「障害者雇用水増し問題取材班」 金友久美子記者 「各省庁で行われていた障害者雇用の水増し」スクープ報道

障害者雇用に率先して取り組むべき厚生労働省をはじめとする中央省庁で行われていた「水増し問題」。新聞やテレビ各社も大きく報じているが、一連の報道の先鞭をつけたのは共同通信によるスクープだった。法令で割合が厳しく定められて罰則もある障害者雇用率が適切に運用されているかどうかは、社会全体が包括的なものかどうかを示すバロメーターともいえる。それなのに障害者手帳の有無などを確認することなく、本人申告などを元にずさんな形で集計していた実態は、障害をもつ人々に対する雇用政策だけでなく他の政策にも疑念を抱かせるものになっている。障害者が社会参加を実現し、収入を得て生活の基盤をつくっていくための根幹というべき雇用で行われていた数字のずさんな運用の実態を伝えたことで、行政全般に是正を促し、猛省を迫る報道活動として高く評価する。

・・(途中略)

今度、それぞれの報道機関が生き残りをかけて読者の信頼を獲得していくためにも、こうしたさまざまな試みが評価されることが望ましい。

なかでも同じ旧優生保護法による強制不妊の問題について、継続報道をしていながら、かたやけっしてメディアの責任については触れずに、新聞協会賞という、最高の権威である業界内の顕彰を得た毎日新聞社の存在がある一方で、そのメディアの責任についてもきちんと事実を示して問いただして、責任の所在を問いかけたワセダクロニクルが市民団体の手による貧困ジャーナリズム大賞を得たことは、対照的な事件ともいえた。

それぞれの賞の存在理由が問われるほど明暗を分ける結果となった。


水島宏明
上智大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。放送批評誌「GALAC」編集長。近著に「内側から見たテレビーやらせ・捏造・情報操作の構造ー」(朝日新書)、「想像力欠如社会」(弘文堂)
by kuroki_kazuya | 2018-09-19 06:25 | 学ぶ | Comments(0)